中学・高校数学を厳密に議論する(方程式の同値変形 編)

現在の指導要領では、中学1年生で初めて方程式を習います。そこで習う方程式は1元1次方程式までなので解は1つですが、本来「方程式を解く」ということは、与えられた等式を満たす未知数を過不足なく、すなわち必要十分に求めることです。複素数係数のn次方程式は重複度を含めてn個の解をもつ(代数学の基本定理)ので、n個すべてを求める必要があります。

ところで、中学1年では方程式を解くための手段として「移項」を習います。移項は「A=BならばA+C=B+C」という等式の性質による式変形ですが、本来この議論だけでは不十分です。大切なことは、「A=BとA+C=B+Cが同値であること、すなわちA+C=B+CならばA=Bも成り立つ」ことであり、これによって式変形が必要かつ十分であることが保証されます。「A=BならばA+C=B+C」のみの性質を用いる議論であれば、必要性が確かではありません。もしこの議論のみで進めるのであれば、式変形によって得られた解を与えられた等式の未知数に代入すると本当に等式が成り立つかを確かめる必要があります。

その他、中学2年生の連立方程式の単元では、代入法を習いますが、ここでも同値性を失う恐れのある議論をしています。①式に②式を代入することで文字を1つ消去し、未知数のうちの1つの解を得るのはよくある流れですが、もう一方の解を求めるためにその得られた解を①式, ②式のどちらに代入しても良いと習います。しかし、これはあくまで連立1次方程式においてのみ成り立つ話であって、一般には①式に代入すると同値性を失います。円と直線の共有点の座標を求めるときに解く、x^2+y^2=1かつy=x+1などは良い例です。

よく、無理方程式を解いたときに必要でない解も求めてしまう誤答があります。これは、まぎれもなく同値性の喪失から起きるものです(両辺を2乗するという操作)。生徒が混乱しない程度に、同値変形の大切さも感じさせたいものです。

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