中学・高校数学を厳密に議論する(因数分解の定義 編)

  中学生の頃、2X+6を2(X+3)と変形するのは因数分解と呼ばない、という話を聞いたことがあります。当時は、それを因数分解としない理由を読んでも理解できなかったのですが、今になって考えるとこういうことなのかな、と思い記事にすることにしました。

 まずは、因数分解をきちんと定義するために、様々な定義をしていきます。

以下、Rを単位元1をもつ可換環とします。

定義1.(正則元)a∈Rが正則元であるとは、∃b∈R s.t. ab=ba=1を満たすときをいう。

定義2.(素イデアル) RのイデアルPが素イデアルであるとは、∀a, b∈R, ab∈P⇒a∈Pまたはb∈Pを満たすときをいう。

定義3.(単項イデアル) Rの1つの元aにより生成されるイデアル、すなわち{ra|r∈R}を単項イデアルといい、(a)とかく。

定義4.(倍元・約元) a, b∈Rについて、∃c∈R s.t. a=bcのとき、aをbの倍元、bをaの約元とよび、b|aと表す。

定義5.(同伴元) a, b∈Rについて、b|aかつa|bのとき、bをaの(またaをbの)同伴元という。

定義6.(既約元) a∈R\{0}をRの正則元でないとする。aの約元が正則元またはaの同伴元に限るとき、aをRの既約元といい、aは(R上で)既約であるという。

定義7.(素元) p∈Rについて、(p)が素イデアルのとき、pをRの素元という。

・2X+6を有理数係数多項式環Q[X]、あるいは実数係数多項式環R[X]の元としてみた場合

因数分解を「既約でない多項式環の元を既約な元の積で表すこと」と定義すると、2X+6はQ[X]上(R[X]上)既約なので、2X+6=2(X+3)は因数分解でない。一方、「素元でない多項式環の元を素元の積で表すこと」と定義すると、2X+6は素元でないので、2X+6=2(X+3)は因数分解である。

・2X+6を整数係数多項式環Z[X]の元としてみた場合

既約元と素元は一致し、2X+6は既約元でも素元でもないので、因数分解を「既約な元の積で表すこと」と「素元の積で表すこと」のどちらで定義しても、2X+6=2(X+3)は因数分解である。

中高生に既約元と素元の違いは理解しにくいと思うので、高校までの段階であれば因数分解を「素元の積で表すこと」と定義しているのが一般的なのでしょう。ところが、考えている多項式はどこの元としてみているのかは、きちんと設定する必要があると思います。つまり、どこの範囲で因数分解するかということです。

例題)2X⁴-18を次の範囲で因数分解せよ。

(1)有理数 (2)実数 (3)複素数

解答)(1) (与式)=2(X⁴-9)=2(X²-3)(X²+3)

(2) (与式)=2(X+√3)(X-√3)(X²+3)

(3) (与式)=2(X+√3)(X-√3)(X+√3i)(X-√3i)

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