(中高生向け)代数的考察による数列の一意性

 クイズです。次の?に入る数は何でしょうか。

  1        3       5       7       ?

恐らく多くの人が、9と答えるのではないでしょうか。「2ずつ増える」という規則に従って数が並んでいますから、9と考えるのが自然でしょう。正解です。ちなみに、2ずつ増えるという規則から、n番目に来る数は2n-1と表すことが出来ます。

さて、これには議論の余地が無いように思いますが、例えば?に入る数を33と考えてみてはどうでしょうか。どういうことかと言うと、n番目に来る数を(n-1)(n-2)(n-3)(n-4)+2n-1と考えたんです。この式にn=1, 2, 3, 4のいずれかの数を代入すると、(n-1)(n-2)(n-3)(n-4)はどれか一つの( )の中が0になって、掛けても0になるので、2n-1のみを計算すれば数が得られることになります。ところが、n=5を代入したとたん状況は変わり、5番目に来る数は4×3×2×1+2×5-1=33となります。「そんな考え方はひねくれてるよ!」とブチ切れる人もいるかもしれませんが、「n番目には(n-1)(n-2)(n-3)(n-4)+2n-1が来る」というのも規則であり、数学的に問題は無いのです。

*以下、数の並びのことを数列と呼びます(高校2年生以上は習いましたね)。

ちなみに、このクイズに出てきた数列は、「2ずつ増える」という、規則が簡単に見つかるものですが、その規則に気づかなかったとしても、n番目に来る数の式を機械的に作ることが出来ます。その作り方は、「文字を4つ用いて、nについての3次式をn番目の式と置く」ことです。つまり、n番目の数がan³+bn²+cn+dである数列だとして、a, b, c, dの数を求めてやればよいのです。クイズの数列は、1番目の数が1なので、n=1を代入した式、a+b+c+dは1です。同様に、n=2, 3, 4についても考えると、全部でa+b+c+d=1, 8a+4b+2c+d=3, 27a+9b+3c+d=5, 64a+16b+4c+d=7という式が得られます。これら4つの式を連立方程式として解くと、a, b, c, dの値が求まるので、n番目の数の式を得ることが出来ます。ちなみに、この連立方程式の解(つまりa, b, c, dの値の組)は1つしかないので、逆に言えばn番目の数がnの3次式であるものは、1つしかないということが出来ます。

では、「文字を5つ用いて、nについての4次式をn番目の式」と置いた場合、どうなるでしょうか。n番目の数をan⁴+bn³+cn²+dn+eと置いて、先ほどと同様にa, b, c, d, eについて条件式を立てていくと、5つの文字に対して式は4つしか得られません。よって、文字の個数より式の数が少ないので、この連立方程式は不定、つまり解は無数にあることになります(分かりにくければ、2元1次方程式x+y=1などで考えてみてください。これは、2つの文字に対して式は1つであり、x+y=1を満たすx, yの値の組は無数にあります。このように、文字の個数より式の数が少ないと、解は不定となってしまうのです)。

つまり、何が言いたいかと言うと、「?には9や33を入れることができるから、?に入る数は2つ以上ある」どころか、「?に入る数は無数にある」と言うことが分かります。

そして、もっと言うと、?にどんな数を入れたとしても、文字を5つ以上用いてn番目の式を置き、n=1, 2, 3, 4, 5を代入していけば、解は1つ、あるいは無数に得られるので、「?に入る数は何でもよい」とも言えるのです。

*注意* 「?に入る数は無数にある」と、「?に入る数は何でもよい」は意味が違います。「?に入る数は何でもよい」の方がより強いことを主張しています。「?に入る数は無数にある」というのは、文字を5つ以上用いてn番目の式を置き、n=1からn=4まで代入して得られる条件式を考えると分かる事であり、「?に入る数は何でもよい」というのは、n=1から5まで代入して得られる条件式を考えると分かる事です。

一般に、数を有限個(n個)並べただけでは、その数列は一つに定まらず、n+1番目の数はどんな数にでもなり得ることが分かります。ですので、数列を表現するときは、数をいくつか並べるのではく、n番目の数をnを用いた式で表したり、規則の並びをきちんと言葉で表現したりすることが大切です(素数の並んだ数列など、n番目の数をnを用いた式では表せない数列もあります)。もちろん、漸化式を知っている人は、漸化式でも数列を表現することが可能です。

(すいませんが、この段落だけは大学数学の言葉を使わせてください(m´・ω・`)m )数をm個並べたもの数列が一通りに定まらないのは、実数を係数とするnについての多項式環R[n]から、m+1個以上の線形独立なベクトルをとることで分かる、と言うことです。数列を定めるということは、自然数全体の集合から実数全体の集合(複素数列であれば複素数全体の集合)への写像を与えることと同値なわけです。

p.s. 「クイズに出てきた数列のn番目の式を、2次式でan²+bn+cと置くとどうなるんだろう」と考えた人もいるかもしれません。この場合、3つの文字に対して4つの式が得られます。一般に、連立方程式で文字の個数が式の個数以下になると、「解無し」いわゆる「不能」になる可能性があります。文字の個数と式の個数が同じであっても、不能である連立方程式は存在します。例えば、x+y=1, x+y=2を同時に満たすx, yの値の組は存在しないので、この連立方程式は不能です。文字の個数の方が多ければ、不能にはなりません。この記事を通して、不定になる十分条件と、不能になる必要条件を説明したことになります。では、それぞれの必要十分条件が何か、興味を持った人は大学で数学科に進学し、線形代数をよく勉強してみてください。線形代数は1年生で習う大学がほとんどですよ。


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