中学・高校数学を厳密に議論する(初等幾何の証明 編)

最近大学数学が全く勉強できていませんね・・・ダメだダメだ。

現在の学習指導要領では、中学2年生で本格的に証明の概念を学びます。そこでは初等幾何を扱っていて、その中に「二等辺三角形ならば底角は等しい」という定理を証明しています。すなわち、「△ABCにおいて、AB=ACならば∠B=∠C」・・・★という定理です。

このことを証明するために、線分BCの中点Mをとり、△ABMと△ACMが三辺相当であることから合同である、よって∠B=∠Cと言いたいところですが、これでは論理的な誤りがあります。なぜならば、「2つの三角形が三辺相当ならば合同」ということを証明するために、「二等辺三角形ならば底角は等しい」という事実を用いるからです。その証明は、次の通りです。

△ABCと△DEFにおいて、AB=DE、AC=DF、BC=EFを仮定する。点Bと点E、点Cと点Fを重ねる。△BAD及び△CADは二等辺三角形であるから、∠BAD=∠BDAかつ∠CAD=∠CDAとなる。よって、∠ABC=∠DEF。△ABCと△DEFは二辺狭角相当であるから、△ABC≡△DEF(ちなみに、「2つの三角形が二辺狭角相当ならば合同」は三角形の決定条件からほぼ自明です。)

そこで、★を示すために、線分BCの中点Mをとるのではなく、∠BACの二等分線を引くことで、△ABHと△ACH(Hは∠BACの二等分線とBCの交点)が二辺狭角相当であることから∠B=∠Cという証明が(とある)教科書には載っています。

ところが、角の二等分線の存在証明は、初等幾何の範囲では「2つの三角形が三辺相当ならば合同」ということを用いています(つまり中学1年生で習った角の二等分線の作図法が正しいことを示すには、三辺相当の合同条件が必要になります)。

つまり、この教科書の証明は、「△ABCにおいて、AB=ACならば∠B=∠C」を示すために、「三辺相当ならば合同」であることを用いるのですが、これを言うためには「△ABCにおいてAB=ACならば∠B=∠C」を用いなければならないので、循環論法に陥っているわけです。

こんなことを言うと「角の二等分線が存在することは感覚的に当たり前だ」と言われてしまうかもしれませんが、この感覚的に当たり前であることをきちんと示すのは、少なくとも初等幾何の範囲では簡単にできません(というか簡単にできる方法もあるのかもしれませんが、私は知りません)。角∠XOYの二等分線の存在は、半直線OX, OY上それぞれに任意の点A, Bとり、点Pを点Aから点Bまで直線的に動かすことで証明できます。すなわち、点Pが動いた距離を、∠AOPの角度に対応させる写像(関数)を定めれば、この関数は連続関数であり、かつ値域は0から∠XOYまでなので、中間値の定理から∠XOP=∠XOY/2となる点Pがとれることが示されます。もちろん、この連続関数であるかをさらにツッコむとすると、εδ論法になりますが。

角の二等分線が存在することと中間値の定理が成立することは同値命題であるので、「角の二等分線が存在することは当たり前だ」と言うのは、「中間値の定理が成立することは当たり前だ」と言っていることと同じになります。

初等幾何の範囲を超えて、中間値の定理を用いることで★の証明が完成しましたが、もっともっと簡単で手っ取り早い証明は、△ABCと△ACBが二辺狭角相当であることから合同であるとすることです。

p.s. 循環論法に陥っている教科書の議論については、sinx/x→1 (x→0)などが有名です。ただ、これはこれで長くなるのでまた今度記事にします。

0コメント

  • 1000 / 1000