中学・高校数学を厳密に議論する(指数関数の定義 編)

 *この記事では、実数の連続性を認めて議論しています。

 最近、abc予想の証明の査読が完了したと話題になっていますね。「abc予想の証明は難しすぎて理解できる人は世界に数人しかいないが、abc予想の主張は中高生でも理解できるものだ」と、多くの方がその主張の説明をされています。abc予想の主張とは、

a+b=cを満たす互いに素な自然数の組(a, b, c)に対して, d=rad(abc)とする(rad(abc)はabcを素因数分解したときに表れる素数の積).このとき, 任意の正の数εに対して, c>d^(1+ε)を満たす(a, b, c)の組は高々有限個しかない

というものです。確かに、radの説明さえされれば、中学・高校で習う程度の用語・式しか出てこないので、「ふーん、そうなんだ」と思うかもしれません。ただ、この注目すべきなのは、εが任意の正の数であるということです。εが無理数をとることもあります。εが無理数の場合、d^(1+ε)はいわば「無理数乗」を表します。例えば、ε=√3-1のとき, d^√3とはどういう意味でしょうか。「dを√3回かける」という解釈は強引です。正の数の有理数乗であれば、高校数学の範囲で定義されていますが(正の数の有理数乗の定義を正確に述べられる高校生はかなり少ないと思いますが)、無理数乗の定義は教科書に数行にわたって書いているだけです。指数を実数まで拡張したときに指数法則が成り立つかの証明も書いてありませんし、指数関数が連続であるかという議論もされていません。そこで今回は、この「無理数乗」を厳密に定義して、それによって定義された指数関数の性質を見ていきます。

 以下, a>1とし, 有理数xに対してのa^xの定義は既知のもの, および有理数x, yに対しx<y⇒a^x<a^yが成り立つことはよいものとします。xを無理数とします。ここで,          S={a^t| t<xは有理数}とし、x<uなる有理数uを考えると, Sの上界としてa^uがとれます。そこで, a^xをsupSと定義します(ワイエルシュトラウスの定理)。これによって定義された指数関数が, ①単調増加関数であること, ②連続関数であること を示していきましょう。

①まず, 有理数tに対し, t<x⇒a^t<a^xを示します。t<t'<xなる有理数t'をとると(有理数の稠密性), a^t<a^t'であり, さらにsupの定義からa^t'≦a^xがいえるので, a^t<a^xが成り立ちます。次に, 有理数uに対し, x<u⇒a^x<a^uが成り立ちます。これも同様にx<u'<uなる有理数u'を考えることで示すことが出来ます。                           この議論から, 無理数tに対しx<t⇒a^x<a^tが成り立ちます。x<u<tなる有理数uをとり上の議論に適用させることで示せます。                              以上から, 実数x, tに対しx<t⇒a^x<a^tとなることが示せました。             有理数の稠密性を用いて, 有理数乗の大小関係に落とし込むことがポイントでした。

② a>1より, a^(1/n)→1  (n→∞)が成り立ちます。よって, 任意のxと任意のε>0に対して, 十分大きなnが存在してa^(1/n)-1<ε/a^x⇔a^x{a^(1/n)-1}<εを満たします。いま, 有理数u, vをu<x<vかつv-u<1/nを満たすように選べば,①からa^v-a^u=a^u{a^(v-u)-1}<a^x{a^(1/n)-1}<εとなります。ここで, δ>0をu<x-δ<x<x+δ<vとなるようにとると, |t-x|<δ⇒u<t<vなので,                      |t-x|<δ⇒|a^t-a^x|<a^v-a^u<εとなり, a^xが連続であることが分かりました。

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