数学は何が面白いのか

 数学が好きであることを公言していると、よく「何で数学が好きなの?」という質問を受けますが、いつもどう答えればよいのか迷ってしまいます。「どうすれば数学が好きになるかということと、どうすれば映画やマンガが好きになるかということにそう変わりはない」と仰っていた某数学者がいらっしゃいました。私が「数学のこんなことが面白い!」と答えても、それを相手に共感されることが出来る自信が無いのです。

 それでも、なぜ数学が好きなのか、という問いに答えるとすれば、一番は、「アイディアを愛せるから」だと思うんです。例えば、「虚数なんて存在しない数をどうして考えるのか」という疑問の声をよく耳にしますが、複素数は、3次方程式の解の公式が起源とされています。複素数を導入することによって、3次方程式の解の公式を発見することが出来ました。解の公式が発見されたということは、方程式を機械的に(計算さえすれば)解くことが出来るということを意味しています。ある3次方程式の解が仮に実数だったとしても、それを計算で導くことが出来るのです。つまり複素数の導入は、「複素数によって今まで解無しとしていた方程式も解を求められる」ということだけではなくて、「実数の世界の話でも、複素数を考えることによって解決できることがある」ということに、大きな意味があります。2乗して-1になるという、その前までは常識から逸脱したような数が、こんなにも役に立っている。この虚数・複素数を見つけたこと、このアイディアって、本当に素晴らしいと思いませんか?他にも、有理数から実数を構成するために、有理数の「切断」というものを考えて、その「切断」を実数と同一視するというアイディア。しかもこれによって構成された実数は、大小関係や、演算がきちんと定義されています。有理数を切断することを実数だと考えようだなんて、凡人の私には到底思いつかない発想です。

 このように、信じられない程頭の良い数学者たちの素晴らしいアイディアによって、より数学の世界は広がっています。「こんな問題を解決するために、こんなことを考えたのか!」という感動が、「アイディアを愛する」という意味です。この「アイディアを愛せる」ことが数学の一番面白い点だと思う理由は、数学が人間の頭だけで話が進む学問であるからだと思います。数学の正しさを確かめるには実験器具もいらないし、社会の風習や常識などがどんなに変わっても数学の真理は変わらない。

 最近では、理数教科が日常生活とどのように関わっているかをアピールして、子どもたちの興味関心を育てようという考えが広まっています。確かに、普段学んでいる数学がどのように日常に役立っているかを考えるのは大切なことだと思いますし、その考えを否定するつもりは全くありません。ですが、本来数学は、仮に日常で使われないとしても価値が無いような学問ではないですし、日常で使う・使わないの次元で価値を語れるものではないと思います。人によって面白いと感じるものは違うかもしれませんが、それでも出来る限り多くの人に本当の数学の面白さを伝えていくことが大切だと思いますし、どうすればそれを伝えられるのか、日々勉強して精進していきたいと思います。

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